矯正治療は「歯並びや噛み合わせを整えるもの」というイメージが強いですが、それだけではありません。
近年の研究では、呼吸のパターン、とくに「口呼吸」の習慣が、歯並びや顎の発育、さらには全身の健康にも深く関係しているといわれています。
そこで今回は、口呼吸になってしまう原因、口呼吸が歯列やお口の環境にどのような悪影響を及ぼすのか、そして矯正治療で呼吸の改善を目指す際に知っておきたいポイントを、解説します。
目次
なぜ口呼吸になってしまうのか?見逃されがちな原因

口呼吸が続く原因として「鼻が詰まっているから」という説明をよく耳にしますが、それだけではありません。
実際には、複数の要因が重なり合って口呼吸が習慣化しているケースが多く見られます。
ここでは代表的な原因をいくつかご紹介します。
鼻づまり・アレルギー・副鼻腔のトラブル
風邪や花粉症、ハウスダストなどによるアレルギー性鼻炎で鼻の通りが悪くなると、鼻呼吸がしにくく、口で呼吸するクセがつきやすくなります。
また、扁桃腺やアデノイドの肥大によって鼻呼吸が妨げられる場合もあり、特にお子様の場合は早期の発見が重要です。花粉症などの一時的な鼻づまりであっても、それが長期間続くと「鼻で呼吸する感覚」が失われ、結果的に口呼吸がクセとして定着してしまうこともあります。
鼻腔・上顎・舌の位置・姿勢の問題
鼻腔の形や上顎の幅、舌の位置などのお口の構造も口呼吸に大きく関係しています。
たとえば、上顎の発育が不十分で幅が狭い場合、鼻腔のスペースが狭くなり、鼻呼吸がしにくくなることがあります。
また、舌が上あごの少し出ている部分についていない「低位舌」や、口周り・頬・首の筋肉が弱っている状態、さらに猫背なども口が開きやすい要因となります。
つまり、口呼吸は「ただ口を開けて息をしているだけ」の単純な癖ではありません。
鼻やあごの形・舌の位置・筋肉のバランス・姿勢・日常のクセなど、さまざまな要素が関係して起こる「全体的な問題」です。そのため、改善するには「口を閉じるように意識する」だけでは不十分なケースが多いでしょう。
原因を正しく見極めたうえで、呼吸のトレーニングや姿勢の改善、舌の正しい位置づけなどを組み合わせて、全体のバランスを整えていくことが大切です。
口呼吸を続けるとどうなる?お口と歯並びへの影響

お口の乾燥による虫歯・歯肉炎・口臭のリスク増加
口を開けたまま呼吸していると、口の中が乾燥しやすくなります。
そうすると、だ液の自浄作用や抗菌作用が低下して、虫歯や歯周病(歯肉炎)になりやすくなってしまいます。
さらに、鼻呼吸と違って空気中の細菌やウイルスが直接口や喉に入りやすいため、感染症への感染リスクも高まります。
乾燥による口内環境の悪化は、口臭の原因にもつながります。
顎の発育阻害・歯列の乱れ(不正咬合)の原因に
特に成長期のお子様は、口呼吸が続くと舌が上あごについていないと、上顎の発育が不十分になります。
その結果、上あごが狭くなり歯が並ぶスペースが足りなくなることで、八重歯や叢生(歯が重なって生える状態)、出っ歯などの歯並びの乱れを引き起こしやすくなります。
また、常に口が開いた姿勢を続けていると、あごが後ろに下がりやすく、受け口や開咬といった噛み合わせの問題が起きるケースあります。
このような状態が続くと、歯並びが悪い→口呼吸になる→さらに歯並びが悪くなるという悪循環に陥りやすくなります。
顔つき・睡眠への影響
長期間の口呼吸は、顔の筋肉の発達にも影響を及ぼします。
口がぽかんと開き、面長で筋肉がたるんだような「アデノイド顔貌」と呼ばれる特徴的な顔つきになることがあります。
さらに、睡眠中に舌の位置が下がることで気道が狭くなり、いびきや睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めることも分かっています。
また、日常生活では、呼吸が浅くなることで酸素の取り込みが減り、集中力の低下や慢性的な疲労につながるケースもあります。
このように、口呼吸の影響は「歯」や「顎」だけでなく、顔の形・姿勢・睡眠の質・体の健康にまで関係がある場合もあります。
そのため、早めに気づき、歯科医院での確認、改善トレーニングを受けることがとても大切です。
矯正治療で呼吸が変わる?その可能性とポイント
矯正治療というと「歯並びを整えるもの」と思われがちですが、呼吸の改善にもつながる場合があります。
矯正治療がどのように呼吸に関係するのか、その仕組みと注意点をご紹介します。
舌の位置を正しく導く・筋肉バランスを整える
呼吸の改善には、舌の位置や口周りの筋肉も大きく関係します。
矯正治療と並行して行われる口腔筋機能療法(MFT)では、舌を上あごに付ける「正しい舌の位置」をトレーニングします。
あわせて、唇を閉じる筋肉(口輪筋)を鍛えることで、日中も就寝中も自然に口を閉じて鼻で呼吸する習慣をサポートします。
噛み合わせの改善で気道を確保
噛み合わせが整うと、下あごの位置も自然に安定します。
特に下あごが後方に下がっている方は、矯正治療によって下あごが正しい位置に移動し、気道が広がることがあります。
そうすると、息がしやすくなったり、睡眠中の呼吸の質が改善することもあります。
上あごの拡大で鼻の通りをよくする
上あごの幅が狭いと、鼻の空間も狭くなり、鼻づまりや口呼吸の原因になることがあります。
矯正治療では「拡大装置」と呼ばれる装置を使って上あごを横に広げることで、鼻腔のスペースを広げ、空気の通りを改善することが期待できます。
このように鼻呼吸がしやすくなることで、口呼吸から自然に鼻呼吸へと移行しやすくなります。
矯正だけでは改善しないケースも
ただし、すべての口呼吸が矯正治療だけで改善するわけではありません。
鼻づまりやアレルギーなど、耳鼻科の問題が残っている場合は、呼吸の改善が十分に得られないこともあります。
そのため、治療を始める前には耳鼻科で鼻・喉の状態を確認し、矯正だけでなく、呼吸・舌の位置・姿勢などを総合的に整えることが大切です。
併用治療が効果的なケース

呼吸を改善する矯正治療を成功させるには、歯だけでなく全体を見たアプローチが大切です。
口呼吸には、鼻や喉の問題、筋肉の使い方、生活習慣などが関係しているため、必要に応じて他の治療やトレーニングも組み合わせます。
耳鼻科・アレルギー科との連携
鼻づまりやアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、アデノイド肥大などがある場合は、まず耳鼻科での治療が大切です。
鼻の通りを改善しないまま矯正を始めると、口呼吸のクセが残りやすく効果が出にくいことがあります。
口腔筋機能療法(MFT)
長く口呼吸をしていると、舌や口周りの筋肉が弱くなる傾向があります。
MFTでは舌・唇・頬の筋肉を鍛え、正しい舌の位置と鼻呼吸の習慣を身につけます。矯正と一緒に行うと、呼吸改善の効果がより安定して期待できます。
難波矯正歯科では、矯正治療と共に追加料金なしでMFTを行ってまいります。
ナイトスプリント・マウスピースの活用
睡眠中に口が開いてしまう方やいびきがある方には、マウスピースの使用が有効です。
下あごや舌の位置を安定させ、気道を広げて呼吸を助けることができます。また、寝姿勢や枕の高さも見直しましょう。
矯正中・矯正後に呼吸を整えるためのケア
矯正治療の効果を長く保つためには、日常生活で呼吸を整える生活習慣を意識することが大切です。
姿勢を正す
猫背やスマホ首は、舌や気道を圧迫します。あごを軽く引き、肩を開く姿勢を意識しましょう。
口を閉じる習慣をつける
口が開いていないか確認し、舌を上あごにつけて唇を閉じる練習をしましょう。
寝るときの姿勢を見直す
枕の高さや寝姿勢を調整し、気道が広がりやすい仰向けや横向きを心がけましょう。
【まとめ】

矯正治療は、見た目をきれいにするだけでなく、呼吸のしやすさを整える治療としても大切な役割があります。
特に口呼吸の改善には、鼻・顎・舌・姿勢・睡眠などを総合的に見ることが大切です。
歯を並べるだけでなく、「鼻で呼吸できる環境をつくる」ことも矯正の目的のひとつです。口呼吸や歯並びでお悩みの方は、呼吸改善を意識した矯正治療についてぜひお気軽にご相談ください。


