「矯正を始めたらあごが痛くなった」
「口を開けるとカクッと音がする」
そんな症状に心当たりはありませんか?
矯正治療と顎関節症(がくかんせつしょう)には深い関係があります。
そこで今回は、顎関節症の基礎知識と、矯正中や矯正後に起こりやすいトラブルや注意点、予防のために意識したいポイントまで解説します。
目次
顎関節症の初期症状と原因をチェック

顎関節は、耳のすぐ前に位置する「あごの関節」で、下あごの骨と頭蓋骨のくぼみ、その間にあるクッションのような関節円板から構成されています。
この関節は、食事や会話などで口を開け閉めするたびに動くため、とても重要な部分です。
そして、顎関節症とは、この関節や周囲の筋肉に負担や異常が生じることで、「あごの痛み」「カクカクした関節音」「口が開けにくい」といった症状が現れます。
顎関節症の発症の背景には、次のような複数の要因が関係していることといわれています。
・噛み合わせのバランスの悪さ
・歯ぎしりや食いしばりの癖
・姿勢の乱れ(猫背や頬杖など)
・精神的ストレス
・大きなあくびや硬いものを噛むなど、過度なあごの使用
軽度であれば一時的に治まることもありますが、放置すると症状が慢性化し、開口障害や筋肉の緊張など、日常生活に支障をきたすこともあります。
矯正治療が顎関節に与える影響とは
矯正治療は、ワイヤーやマウスピースを使って歯を少しずつ理想的な位置へ動かしていきます。
この歯の移動に伴い、咬み合わせの位置や力のバランスも変化するため、顎関節にも影響が及ぶことがあります。
治療の過程で一時的に「あごが重い」「カクッとする」などの違和感を覚えるのは、関節や筋肉が新しい噛み合わせに順応しようとしているためです。しかし、短期間で歯を大きく動かしたり、過度な力が加わったりすると、関節円板や周囲の筋肉に負担がかかり、顎関節症の症状を誘発する場合もあります。
ただし、これは「矯正治療が原因で悪化する」というわけではありません。
むしろ、適切な治療計画のもとで行われる矯正治療は、噛み合わせのバランスを整え、顎関節への負担を軽減する方向に働くことが多くなります。
矯正で顎関節症が悪化しやすいケース
顎関節症の発症や悪化には、いくつかのリスクがありますのでご紹介します。
・歯ぎしりや食いしばりが強い
・ストレスや姿勢の乱れであご周囲の筋肉が緊張している
・噛み合わせのずれが大きい
・片側ばかりで噛む癖がある
・もともと顎関節に痛みや音がするなどの症状が出ている
これらの条件が重なると、矯正中にあごの関節へ加わる力のバランスが崩れやすく、痛みや関節音が出やすくなる傾向があります。
そのため、治療を始める前にあごの状態をしっかり確認し、症状がある方は必要に応じて顎関節の検査や診断を受けることが大切です。
顎関節への負担を減らす治療計画のポイント
矯正治療で顎関節に負担をかけないためには、治療計画の段階の配慮が大切です。
歯科医師が以下のような点を意識して治療を進めることで、リスクを軽減しやすくなります。
・段階的に歯を動かし、歯や顎に負担のかかる急な力をかけない
・咬み合わせの高さや位置の変化を定期的に微調整する
・開口時のあごの動きや筋肉の緊張をこまめにチェックする
・就寝時の歯ぎしり対策としてマウスピース(ナイトガード)を併用する
また、顎関節の不調がある場合は、矯正の歯科医師と顎関節症担当の歯科医師が連携して治療を行うことが理想です。
治療中に少しでも違和感や痛みを覚えた場合は、自己判断せず、早めに歯科医師へ相談することが大切です。
顎関節症の症状が出たときの対応・対処法

矯正治療中に「あごが痛い」「口を開けづらい」などの症状が出た場合でも、自己判断で装置を外すことは止めましょう。
装置を外してしまうと、歯の移動や咬み合わせのバランスが崩れ、かえって症状を悪化させる可能性があります。
まずは、以下のような初期対応を行いましょう。
【初期対応のポイント】
患部を冷やす
痛みや腫れがあるときは、冷たいタオルや冷湿布を顎に軽く当てましょう。長時間の冷却は避け、10分程度を目安にしましょう。
やわらかい食事に切り替える
硬いものを噛むと関節や筋肉に負担がかかります。おかゆ・スープ・煮物など、やわらかく消化のよい食事を選びましょう。
あごを安静に保つ
大きなあくびや固い物の咀嚼は控え、関節を休ませることを意識しましょう。
咬筋やこめかみをやさしくマッサージ
筋肉の緊張がある場合は、指先で軽く円を描くようにほぐすと血行が促進され、痛みが和らぐことがあります。
多くの場合、装置の微調整やマウスピース(ナイトガード)の併用で症状が落ち着きます。それでも痛みが強い、口がほとんど開かない、左右差が大きいといった場合は、顎関節症の専門的な診断・治療が必要になることもあります。
早めに歯科医院に連絡し、症状の経過や痛みの程度を詳しく伝えましょう。
迅速に対応することで、治療の中断を防ぎ、関節の回復をスムーズに進めやすくなります。
顎関節を守るための生活習慣とセルフケア
顎関節のトラブルを未然に防ぐためには、日常生活の習慣の見直しがとても大切です。
毎日の動作や姿勢、ストレスのかかり方を意識するだけでも、顎への負担を軽減することができます。
以下のポイントを意識してみましょう。
無理に大きく口を開けない
あくびや食事の際に勢いよく口を開けると、関節や筋肉に負担がかかりやすくなります。指2〜3本分を目安に、ゆっくり開け閉めすることを意識しましょう
頬杖・うつ伏せ寝の習慣をやめる
片側から力が加わると、顎の位置がずれたり、関節円板に負荷がかかったりします。猫背や座る姿勢を正し、左右のバランスを保つことが大切です。
ストレスを溜めず、リラックス時間を作る
精神的な緊張は、無意識の歯ぎしりや食いしばりを引き起こす要因につながります。深呼吸・軽いストレッチ・入浴など、ご自分に合ったリラックス法を取り入れましょう。
睡眠中の歯ぎしりにはナイトガードを活用
寝ている間は無意識に強い力がかかることがあります。ナイトガードを使用することで、歯や顎関節のダメージを軽減できます。
スマホやパソコン操作時の姿勢を改善する
長時間の猫背姿勢は、頭部が前に出て顎が後方に下がるため、関節にストレスがかかりやすくなります。画面の高さを目線に合わせ、背筋を伸ばすように意識しましょう。
このように、日常の小さな意識や行動の積み重ねが、顎関節の健康を守る大きなポイントになります。
「少し違和感があるな」と感じた時に、早めに歯科医院で相談することも予防のために大切です。
まとめ

矯正治療は歯列に沿って歯をきれいに並べるだけではなく、咬み合わせのバランスを整える治療でもあります。
顎関節は外から見えない部分ですが、ここに負担がかかると、治療の完成度や治療後の安定性に影響することがあります。
矯正をスムーズに進めるためには、次のポイントを意識しましょう。
・噛む力・姿勢・食いしばりの癖を意識してコントロールする
・定期的なチェックで早期対応・微調整を行う
・小さな違和感を見逃さず、早めに相談する
これらを心がけることで、痛みを軽減した矯正治療と、長期的に安定した咬み合わせを両立しやすくなります。
もし矯正中や治療後に「顎が痛い」「カクカク音がする」といった症状を感じたら、我慢せずに専門医へ相談しましょう。
早い段階の対応によって、健康な顎関節と理想的な噛み合わせを守りやすくなります。
当院では、表側矯正、裏側矯正(舌側矯正)、マウスピース型矯正に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。


